襖四面にわたって広がる、月夜の夢想的な風景。波の立たない静かな湖面やそこに浮かぶ舟、鬱蒼とした木々に囲まれた楼閣が、遠くの山容が、ほのかな月明かりを受けて浮かび上がる。画面右手を大きく占める懸崖は雲を越えてそびえ、ちりちりとしたやや神経質な描法や闇夜に舞う鳥の表現には蕭白の奇矯な要素が垣間見える。蕭白の卓越した水墨の技法によって、濃淡や潤渇が繊細に使い分けられ、墨一色とは思えない様々な表情を見せる。画風形成の最初の段階にみられる荒削りの初発性と同時に、月光に対する鋭い感受性がみられる、蕭白の三十歳代中頃の優品。