文展監査展出品作。「蓮の花が開くときには音がする」という伝承に着想し、優雅な雰囲気とモダンな感覚とを融合させた、橋本明治初期の優品。ひとつだけつぼみをつけた蓮の花を左端に寄せ、開花の瞬間を待ちかまえる女性たちを大きく描く。直線で構成された椅子や着物の柄といったモチーフに加え、二人の人物までが画面の対角線にあわせて交差するように組み合わされている。こうした幾何学的な構成と、白をベースにした寒色系の色使いとがあいまって、クールな雰囲気が生まれている。早朝の爽やかな空気や、耳をすまして開花を待つ緊張感が伝わってくるようである。
島根県浜田市に生まれた橋本明治(1904-1991)は、大正15年(1926)に上京、東京美術学校で松岡映丘に学んだ。在学中の昭和4年(1929)に第10回帝展に初入選して以降、帝展、新文展に作品を発表し、日本画家としての実績を積んでゆく。昭和15年、法隆寺壁画模写主任に任命される。戦後、創造美術の創立に参加するが翌年脱退し、日展に出品。第7回日展《赤い椅子》(東京国立近代美術館所蔵)以降、太い線と明快な色彩による「橋本様式」を確立し、人物画の大作を数多く残した。