30代で審査員となり、若きホープ とまで目されながら、突然日展を脱退した後、初めて 開催した個展「男と女」の出品作である。この展覧会は中村の真価を世に問うものとなっ たが、それまでの画風とは異なる荒々しく叩きつけるような筆致で、しかもアクリルや蛍光塗料の原色を駆使した表現に、人々は度肝を抜かれた。しかしながら、戦後の抽象絵画 や様々な材質を自由に駆使した実験的な作品の影響もあり、昭和30年代から40年代にかけ て、技法,内容,材質等すべての面において従来の日本画の枠を越えた表現を行う作家や 作品が数多く誕生し、「日本画」の概念は根底から問い直されていた。
こうした流れのなかでこの作品を見ると、従来の日本画ならひとつの型か抑制し象徴化 した表現で描いたであろう、画面から伝わってくる怒りや叫び、悲しみなどの内容を、生 な、ストレートな表現で我々の前に差し出していることが分かる。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選、1998年、P. 87.)