重厚感あるアンカット・ベルベットの基布に紫と緑の細い縞柄が軽やかさを添える。コートと白いウエストコートには、揃いの草花柄の刺繍が施されている。
18世紀、刺繍はむしろ紳士服にその美しさを発揮したといっても過言ではない。その名残りは、現在でもアカデミー・フランセーズ会員の正装に見ることができる。特に盛装用のアビ・ア・ラ・フランセーズのコートとウエストコートには、金・銀糸、シークイン、多彩な色糸、模造宝石などでたっぷりと刺繍がされていた。
当時のパリには、刺繍師たちの工房が数多くみられ、その仕事場の様子はディドロの『百科全書』にも紹介されている。あらかじめ型紙にそって刺繍された布地が、注文主の好みによって選択され、その後、裁断、縫製するディスポジションという方法で製作されていた。華やかな刺繍、ジャボやカフスに使われた高価なレース、おしゃれのポイントだった釦などが、ロココの粋な男たちを仕上げるのに不可欠であった。