二羽の家鴨(あひる)と一匹の猫を組み合わせて、人間の顔(家鴨の嘴(くちばし)と目の模様、猫の耳やリボンが歌舞伎の隈取のようにも見える)に見立てた作品《鳥獣曼荼羅》は、日本を代表するシュルレアリスム(超現実主義)の画家・北脇昇の「観相(かんそう)学」シリーズの代表作である。
「観相」とは、「人の容貌・骨格を見て、その性質・運命・吉兆を判断すること」いわゆる「人相見」のことであるが、北脇はそれを転用して、身近な世界のなかに「人間の顔」を発見することに意味を変えている。シュルレアリスムの代表画家サルバドール・ダリの偏執狂的・批判的方法から発想を得て、複雑で無秩序な現実のなかに「人相」という秩序や構造を与えることで、世界を理解し再構成しようとしたのである。こうして航空写真に写った集落や街灯に浮かび上がる欄干に「人間の顔」を見いだし、あるいは洋風の建築物(窓や扉)や生物(動物や植物)を「人間の顔」のように組み合わせて、それを絵画化したのである。
誰しも日常的な事物のなかに思ってもいなかった奇妙なものを見つけて、驚いたり笑ったりすることがあるのではないだろうか。このように想像力を羽ばたかせることによって、はじめて世界は出現し、また変容するのである。
家鴨(あひる)と猫に見えたり歌舞伎の隈取に見えたりする二重像による作品《鳥獣曼荼羅》は、まさに超現実主義的に世界を見る面白さを、私たちにわかりやすく教えてくれるのである。
(出典: 名古屋市美術館展示解説カード)
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