生き生きと動くような松林の向こうに、白い富士が濃い空を背景にくっきりと浮かび、雄大な存在感を示しています。大阪に生まれた蕪村(1716-1783)は江戸に出て俳諧を学んだ後、36歳頃から京都で本格的な絵画制作に取り組みました。中国明・清時代の絵画に学んだ蕪村は、池大雅と並ぶ日本文人画の大成者と称されるとともに、俳画の大成者でもあります。蕪村晩年の本作は、同時期の《夜色楼台図》(国宝)、《峨眉露頂図》(重文)と合わせて「三横物」と呼ばれる優品で、富士と松という簡潔なモチーフに様々な対比が織り込まれ、蕪村の俳諧的表現がよく現れています。