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ダヴィデ王を諫めるナタン

アールト・デ・ヘルデル

公益財団法人 東京富士美術館

公益財団法人 東京富士美術館
東京都, 日本

この絵の主題は、旧約聖書に語られた預言者ナタンがダヴィデ王を諌める場面(「サムエル記下」12章1—14節)。
ウリヤの妻バテシバに恋したダヴィデは、ウリヤを危険な戦場に派遣する。ダヴィデのもくろみ通りにウリヤが戦死すると、ダヴィデはバテシバを妻にしてしまい、二人のあいだには息子が生まれる。しかし神は、ダヴィデのもとに預言者ナタンを遣わす。そこでナタンは、ダヴィデに富者と貧者の譬え話を語り、ダヴィデに自分の犯した罪を諭すのである。すなわち、ある富者は多くの家畜を所有していたにもかかわらず、客人をもてなす時、自分の家畜を屠殺するのが惜しくなり、貧者が自分の家族同様に可愛がっていた雌羊を盗んでもてなした、と。ダウィデはその男のことを非常に怒り、彼は殺されるべきであるという。ナタンはダヴィデに「あなたはその男だ」と告げる。つまり、栄華をきわめたダヴィデ王が自分の部下の妻を奪ったのは、この富者と同じだというのである。そして、神はこのダヴィデの罪に対する罰として、彼とバテシバの息子の命を奪ったという。
画面には、杖を手にした質素な身なりのナタンと、王笏を持ち豪華な衣装を身につけたダヴィデが描かれている。ここでヘルダーは、譬え話の富者と貧者を暗喩するかのように、対照的な衣装に身を包んだ二人の人物の顔の表情と手ぶりを表現力豊かに描き出し、対話によってあぶり出される心理的な反応を表現しようとしている。明暗の対比で浮かび上がる人物に深い精神性を与えつつ、自身では気がつかないような人間の心の奥底、目には見えない人間の心理的な領域を視覚化しようと試みているかのようである。
ヘルダーはアムステルダムでレンブラントに学び、師の後期様式に手を加え展開させた。ヘルダーの最高傑作のいくつかは、しばしばレンブラント作品と見なされたこともあり、「ヘルダーの絵はレンブラントの絵よりも美しすぎる」との批評があるように、精錬された美感に溢れている。

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