福岡県久留米市出身の版画家藤森静雄。東京美術学校の在学中に級友の恩地孝四郎と田中恭吉とで出版した詩と木版画の『月映』(つくはえ)は、藤森の処女作であるばかりでなく代表作です。また、わが国の近代版画の金字塔として高く評価されています。恋や性、生や死などについての“刻まれた青春譜”ともいえるこの詩画集は、物質文明に心を奪われた現代の若者に強い衝激を与えるに違いありません。本作品は、その『月映』に掲載された一図で、大胆な構図と暗示的な色彩が魅力です。厳しい人生と自然のトンネルに入ろうとしている夜汽車は、23歳の藤森自身でしょうか。