オルホン河はモンゴルのハンガイ山脈東部に発する全長1124㎞の河である。ここに描かれるのは、その上流にある赤滝(美しい滝)と呼ばれる実在の場所だ。滝の少ない草原の国で人々に尊ばれている。1990年から民主化が始まり経済発展の進むモンゴルだが、豊かな国土に対する誇りはなお強い。自然を題材とした絵画も好んで制作されるが、その大半は美しい風景をありのままに描いたものが多い。そんな中で、ツェレンナドミディン・ツェグミドはモンゴル人のアニミズム的な自然観をも作品に織り込む稀な作家である。人々が、自然の中に見いだす霊的な存在。それを時に崇高に、時には不気味に描き出す。作者によると、この作品では子供の頃に一度だけ見た赤滝に女神の姿を宿らせ、「自然の力と人間の悲しみや夢、幸福との結びつき」を描きたかったという。