本作品を含め1,749点を当館に寄贈した西本宏氏にとって、コルヴィッツは特別な作家だったようです。両親や兄弟との確執を抱えた人生を送った西本氏は、社会の底辺にいきる人々にやさしい眼差しを向けたコルヴィッツの版画を自身の救済と捉えたのです。コルヴィッツは、急激に近代化を成し遂げた当時のドイツの深刻な社会矛盾にあえぐ人々の姿に、同情や憐憫よりも「美しさ」を感得し、一貫して労働者や母子の姿を主題としました。本作は7連作『農民戦争』の一葉で、16世紀にドイツで起こった農民の蜂起を描きつつ、そこに20世紀初頭のドイツ国民の姿を重ね合わせています。