ブータンでは、至る所で旗が風になびいている。お経が書かれたこの旗は経文旗と呼ばれ、これによって仏教の教えが風にのって国中に広まると信じられている。この作品は、カーマ・ワンディが、経文旗の一種である、使い古された「ルンタ」(直訳すると「風の馬」)を丸め、まるで石垣のように配置した作品で、伝統的な素材が現代的な手法で再生されている。ブータンは、電話網や通信網の整備が遅れたこともあり、1990年代まで海外からの情報は乏しく、現代美術の情報も極めて少なかった。公的機関も伝統美術に関わるものしかない中、カーマ・ワンディは、イギリス留学後の1998年、VAST(ティンプーの有志の芸術家によるスタジオ)を組織し、子どもや若者が美術と親しむ機会としてアートイベントを精力的に開催し、未来の才能を育むと同時に、現代のブータンにおける美術の意味や役割を探っている。この作品も、ブータン美術の新たな可能性を探る実験的な作品の一つである。