俊恭院福君(尾張家11代斉温継室)所用
天保七年(一八三六)に尾張家十一代斉温に嫁した福君(一八二〇─四〇)の婚礼調度である。梨子地に菊の折枝を主文様として葵紋と近衛家の家紋である抱牡丹紋を散らしていることから、菊折枝蒔絵調度と呼ばれる。一部に同じく近衛家から嫁した九代宗睦夫人好君の調度が含まれているとみられるが、同意匠の調度八十件・雛道具百二十件を数え、現存する大名婚礼調度としては最大規模を誇る。
本作品は駕籠(かご)の一種で、身分の高い人が乗る高級な仕様は「乗物」と呼ばれた。男女の別、公卿、門跡、高級武士、あるいは医者、儒者、僧侶など身分や階級などにより仕様や形態などに区別があった。庶民が用いた粗略な方は当時、駕籠と称された。このように豪華な装飾の施された乗物は身分の高い女性用である。総梨子地の乗物は、本品を含め現存作例は四挺しか知られていない。いずれも葵紋が付けられ、将軍家あるいは御三家ゆかりの品として、別格の最高級仕様であったと考えられる。