1961年武蔵野美術学校卒業。在学中から、植物のような形を細密に描く水彩画で注目され、59年第3回シェル美術賞展で3等を受賞。63年には第3回パリ青年ビエンナーレに出品した。80年代に入ると、テンペラの技法によって、西欧の大聖堂や過去の名画などをモチーフに、天地が反転するような空間を描いた。
建物から群衆まで細密に描かれた画面。全体を見ると、実に不思議な空間で構成されています。左手前の建物は奥に進むにつれて広がり、画面上部では反転した風景があらわれます。一点から見る空間表現にはこだわらず、手前と反対側から見た建物の姿を接合して描いており、あたかも上空を回りながら俯瞰しているかのように見えます。空間や奥行きの描き方を一貫して追求してきた上村次敏にとって、サン・マルコ大聖堂のような複雑な西洋の伝統建築は格好のモチーフでした。入り組んだ画面は、粉末顔料を卵の黄身で溶かし、細い筆で絵付けするテンペラの技法で描かれています。この根気を要する技法によって、緻密な世界はいっそう繊細さを増しています。