メキシコでは、アンドレ・ブルトンの訪問などを契機として、シュルレアリスムの影響を受けた画家たちが多く登場した。なかでも、フリーダ・カーロ、レメディオス・バロ、レオノーラ・キャリントンといった女性画家たちの活躍は目覚ましかった。
マリア・イスキエルドもまた、メキシコを代表する女性画家の一人である。1936年にメキシコを訪れたアントナン・アルトーと知り合い、シュルレアリスムの影響を受けて、メキシコ美術との融合による独自の画風を作り出していった。
この作品には、三体の人形、天使と悪魔、ロバ、鳩といった祭壇の装飾品や奉納品が描かれている。そこには、メキシコ民衆の日常やありふれた日用品、民芸品などをしばしば絵のモチーフとして採り上げたイスキエルドの特徴がよく表れている。絵の周辺に舞台のように赤い幕が下がっていることから、これは劇場の舞台のような空間を絵画化したものと考えられる。しかし、舞台の奥は書き割りというよりは実際の風景のように見え、そこに一匹のライオンがいる。舞台という非現実とライオンのいる風景という現実がないまぜになったような空間によって、イスキエルド独特の不思議な情景が作り出されている。
色彩の豊かさ、構図の面白さにおいても私達を惹きつけるが、何よりもそのイスキエルド独特の摩訶不思議なイメージが強い印象を残す作品である。
(出典:名古屋市美術館展示解説カード)