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粗く素早い筆さばきを用いた大胆で個性的な画風で知られるハルスは、何人かの人物の特徴を一瞬のうちに捉える集団肖像画を得意としたが、1620〜30年代にかけては、風俗画も盛んに手がけた。多くは単身の人物を扱ったもので、《陽気な酒飲み》(1628/30年頃、アムステルダム国立美術館)に代表されるように、画面の中から見る者に気さくに話かけるような表情・身振りや、くつろいだ自由なポーズなど、従来の肖像画にはない新しい要素が導入されている。そして1630年代も末頃になると、内省的な趣を強め、色彩も抑制された地味なものへと変化していく。
このようなハルスの最盛期に描かれた本作は、説教師の威厳ある風貌が的確に捉えられており、この時期の表現に特徴的なプリマ画と呼ばれる直描きの技法による自由な筆致を彷彿とさせるような伸びやかな筆遣いも見られる。
同時代に活躍したレンブラントの、重厚で格調高い趣をみせる肖像画と比較すると、ハルスの作品には実際にモデルの息づかいが感じられるような庶民的な実在感があり、モデルの心理と人間性を巧みに描出することに成功している。右側の背景の上方に記された銘には、モデルの年齢と制作年が書き込まれているが、これはハルスの肖像画に見られる記述で、このモデルが73歳であることが分かる。17世紀のオランダで創造された黒を基調色とする色彩感、自由で伸び伸びとした筆さばきは、はるか2世紀後のフランスにおける印象派の父マネの芸術を予見させるかのようである。

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