肖像画の人物はナポレオンの兄ジョゼフ・ボナパルト。ジョゼフは温厚で善良な紳士として、兄弟のなかでもナポレオンが最も信頼した人物であり、その性格はこの絵の人物の表情にもうかがえる。本作を描いたのは、のちにルイ18世の首席画家として活躍するロベール・ルフェーヴルである。皇帝に即位したナポレオンは、征服したヨーロッパ各国を支配する手段として、血縁関係を利用した。兄ジョゼフをナポリとシチリア王、のちにスペイン王に。また、弟ルイをオランダ王、末弟ジェロームをウェストファリア王に据えた。さらには妹ポーリーヌをはじめとする、三人の妹たちをヨーロッパ各国の王侯貴族に嫁がせた。この絵が描かれたときジョゼフはスペイン王に即位していた。ジョゼフのまとう衣装は金の刺繍が施された儀式用の正装であり、彼が羽織ったコートには、ナポレオンが帝国の象徴として採用した蜜蜂の刺繍が施されている。またその胸元にはナポレオンが創設したレジオン・ドヌール勲章が見える。小道具として配置された王錫や王冠、ナポレオンのために指物師ジャコブが創りあげたモデルのラインを踏襲した玉座が、肖像画の人物が王位にあることを物語っている。