黄檗僧(おうばくそう)、隠元隆琦(いんげんりゅうき)(1592~1673)の肖像である。隠元は1654年、63歳の時に長崎興福寺の僧逸然(いつねん)らの招きで中国から長崎に渡り日本に黄檗禅を伝えた。その来日の意義は単に教義の布教に止まらず当時鎖国状態にあった日本に新しい中国文化、とりわけ絵画、彫刻、書などの分野に黄檗美術と呼ばれる新風を吹き込んだ点にある。本図は長い杖と払子(ほっす)を持ち、獅子にやや斜めを向いて腰掛けるという黄檗僧の肖像としてはあまり見慣れない姿に描かれている。上部の画賛は、「臨済正傳三十二世隠元題」と記すように隠元本人によるもので黄檗風の優れた書風を示す。いっぽう絵は左下に「長」の印章があることから、長兵衛とも称し黄檗宗の肖像画を能くしたことで知られる喜多道矩(きたどうく)(?~1663)の手になることがわかる。画風は他の黄檗絵画と同じく、像主の特徴を中国の肖像画において伝統的に用いられる対看写照の手法によって描いており、老境の像主を撤密な筆で写実的に表現することに成功している。獅子に腰掛ける姿は像主を文殊菩薩(もんじゅぼさつ)になぞらえた見立てであろう。
【ID Number1988B00899】参考文献:『福岡市博物館名品図録』
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