この肖像画は、手に仮装用の仮面を持ち、バラ色のリボンで縁どりされた白いドミノ(頭巾つきのガウン)を着て座っているジョフラン夫人の娘・フェルテ=アンボー侯爵夫人(1715ー1791)を描いたもの。母親のジョフラン夫人(1699ー1777)が「娘が25歳の時にナティエに彼女の肖像画を描いてもらった」と手帳に書きとめている。胸もとには真珠の縁飾りのある白絹製のローブものぞいている。
本作の2年前に同じナティエの手によって描かれた母親ジョフラン夫人の肖像画も東京富士美術館の所蔵であり、これら2点は対をなすような形となっている。
作者ナティエは当時の上流社会の貴婦人たちの人気を集めて、彼女らを神話の女神になぞらえて描く、いわゆる扮装肖像画の形式を流行させた。フランス王室にも迎えられ、ルイ15世の娘たちの御用画家としても活躍したが、後年になって厳正な審美眼に立つディドロから、「紅白粉(べにおしろい)で絵を描いた」と非難されている。しかし本作をはじめ、彼がこの年代に描いた力作には、充実した様式美と繊細な感受性が溢れており、洗練された典型的なロココ趣味で女性を描く肖像画家としてのナティエの才能を見ることができる。
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