袈裟とは、仏教を信奉する出家者が着用すべき衣服として定められているもので、小さな生地を縫いつないで1枚の大きな長方形の生地とする点に特色がある。高僧の着用した袈裟は宝物として尊ばれ、とりわけ禅宗においては、師の袈裟を相伝することが自らの法脈の正統性を顕示することでもあったため、「伝法衣(でんぽうえ)」として格別丁重に扱われた。
この袈裟は、南禅寺の住持であった龍湫周沢(りゅうしゅうしゅうたく)(1308~88)の塔所であった慈聖院の伝法衣で、「応夢衣」との通称で知られる。その名の由来は、無準師範(ぶじゅんしばん)(1178~1249)という中国の高僧から衣を得る夢を見た龍湫のもとに、翌日まさしく無準の袈裟を贈る人があったという伝説にちなむ。しかしながら、袈裟全体に配された手描きの印金による特徴的な牡丹唐草文様は、高麗時代に製作された経典の表紙絵と極めて似通っており、本袈裟は無準師範が活躍した南宋時代ではなく、むしろ龍湫周沢が活躍した時代の、朝鮮半島での製作とする説が有力視されている。中国や朝鮮半島には、古代・中世の袈裟はほとんど存在しておらず、日本に伝えられた作品群は極めて重要な位置を占めている。