すき焼き肉の質感をスーパー・リアリスティックに表現したキッチュな靴。日本特有の、樹脂製食品サンプルの手法を応用している。本品は、赤飯、パフェなどの様々な食物をモチーフにした「食べる靴」シリーズの一点。かつてスキャパレリはダリの発想をヒントにパンプス形の帽子で人々に新鮮なショックを与えたが、熊谷は食物で足元を飾ってみせた。
熊谷は1970年に渡仏。フリーランスのデザイナーとしてカステルバジャックやフィオルッチのデザインを手がけ、靴のデザインで高い評価を得た。80年、パリで靴のブティックを開店。ダリやポロックといったアーティストの作風を自由に採り入れるなど、楽しく、機知に富んだ、ファッショナブルな靴が人気を呼び、プレタポルテにも進出したが、87年に他界した。