一般に、縄文式土器と呼ばれる器は重厚で情念的な造形的特徴をそなえるものが多いのに対し、弥生式土器は軽快で知的な造形感覚を感じさせるものが少なくありません。弥生式土器の代表的作品である本器も、その特徴を存分に感じさせる姿形をしています。すなわち、算盤玉(そろばんだま)を思わせる形状の胴部から、大きく外反させながら口部を立ち上げ、断面が鋤先形(すきさきがた)をした鐔縁(つばぶち)を作り、口部外縁には縦に刻み目を入れています。胴の中ほどには三条の、頚部付け根には一条の複式山形突帯をめぐらして全体を引き締め、口部周りには縦に箆(へら)で撫でた光沢縞による暗文(あんもん)をめぐらしています。幾何学的に構成され、ある意味ですっきりとした印象を与える形状をもちますが、子細にみると意外に細かい造形的工夫と装飾技法がこらされた作品といえるでしょう。このような特異な形状の壺は、北部九州でつくられた弥生時代中期の須玖式土器に属するもので、完成された様式美をみせる本器はその代表的作品です。近年に長崎県壱岐郡勝本町立石唐神から出土した弥生時代の遺品です。