モンゴルの絵画には、この国の美しい風景や、そこにひそむ自然の力を礼賛するものが多いが、現代社会が抱える矛盾や、歴史への省察などの問題意識を持つ作品も見られるようになった。ツァガーンダリーン・エンフジャルガルは、その社会派の代表的な画家であり、例えば貧困の問題を、単に批判するだけでなく、貧しいものの存在の力とともに幻想的に表現する。この絵の中の遠く蜃気楼のように現れた壮麗な建築は、1930年代の共産主義革命によって宗教が禁じられ、文化遺産が破壊されたことを象徴している(それは1990年の民主化まで続いた)。緑色の馬は、モンゴルでは弥勒菩薩を招来しようとする祭りと関わるものであるという。美しい草原にひそむ苦難や悲しみを、作者は夢のような魅力的なイメージの中に描き出す。