伝承によれば、キュプロスの王女カタリナは、4世紀初頭キリスト教への篤い信仰心のため、時のローマ皇帝の命により斬首刑に処された。「キリストの花嫁」として天上に召されたされたことから、この主題は特に女子修道院などに好まれ、清き乙女の理想像として長く信仰を集めた。
ここに描かれているのは殉教をとげんとする聖女に、天使が棕櫚の葉を掲げて祝福を施す場面である。しかし、彼女の周りには、足元に豪華な剣が横たわるのみで、処刑執行人の姿は消え、聖人のアトリビューションの車輪さえも、暗がりに沈み声高に存在を主張することは無い。右上方からの強い光は、カタリナ姫だけに狙いを定め、我々へと両掌を差し出さす身振りとあいまって、画面を一層劇的なものにしている。跪く姿勢をとりながらも、聖人の上半身と下半身のバランスが不自然に感じられるのは、当初本作が見上げて鑑賞されることを想定して描かれたからかもしれない。
宗教改革の波を受け、旧教陣営は信仰心の高揚にイメージの力を利用せんと、民衆の感情に直接的に訴えかける図像を大いに奨励した。ムリーリョの甘美で、ともすれば感傷的に流れる画風はその期待に応えるものであり、本国のみならず、欧州各地で絶大な人気を博した。