インドの更紗は、古くからその色彩の鮮やかさ、染色の堅牢さにおいて、世界中で高い評価を得ていました。4世紀頃にはすでに、輸出品として人気を博していたことが知られています。インド更紗は、東南アジアはいうに及ばず、ヨーロッパや日本にも、輸出されてきましたが、この更紗は、インド国内向けで、寺院の壁掛の一部であったと考えられます。大きな樹の下に鳥や動物たちとともに、二人の女性が描かれています。右の女性は虫や塵をはらう払子を、左の女性は孔雀の羽根の扇子と花を手にしています。その持ち物から、二人は、ヒンドゥ教の神であるヴィシュヌ神の化身・クリシュナの出現を待つ牛飼いの娘たちであるとわかります。寺院の壁掛にふさわしい品格を持ちつつ、型にはまらないのびやかな描写が、生命力を感じさせる名品です。