東京美術学校在学中から寺内萬治郎に師事し〈光風会〉展に出品。1941年、新文展で特選受賞。44年〈光風会〉会員となる。55年渡仏し風景画をはじめる。85年日本芸術院賞を受賞し、88年同会員となる。90年から埼玉県美術家協会会長をつとめた。
武蔵野の木立を主題とする風景画のひとつで、光風会第58回展(1972年)に出品されました。ニュアンスに富むあたたかな色彩でとらえられた草むらや、榛の木の梢を彩るほんのりした紅から、早春の息づかいが伝わってきます。水路や並木が視線を遠くへ誘う透視図法の構図や、素描の味わいを残す疎密のある筆触に、洗練された手堅い描写力を見てとることができます。全体はふんわりした雰囲気ですが、水面に映る木の影はややくっきりと描かれており、澄んだせせらぎに残る冷たさが感じられるかのようです。詩情をたたえつつ季節の移り変わりを的確にとらえた作品です。「武蔵野には冬がよく似合う」と語り、画家が慈しんで描いたこうした風景も、この頃から次第に姿を消していきました。