室町末から江戸初期、色紙大の小画面に細緻に描く華麗な源氏物語画帖が、さかんに作られた。その代表作のひとつで、桃山期の土佐家を継承した土佐光吉(とさみつよし)(1539~1613)の確実な作品として知られている。宝石のように輝く精緻きわまる画面がすばらしい。
最初から第48話までは順序どおり続くが、その後6図は、前半にある6話を再び繰り返している。つまり最後の6話を欠く。近年の解体修理で、第1~35図の裏面に墨印「久翌」、末尾6図に「長次郎」の墨書が確認された。その間13図には何もなかったが、画風は最終6図と共通する。これにより、第35図までは、出家後「久翌」と号した土佐光吉の筆、第36図以降は、光吉の有力門人と思しき「長次郎」なる画家の筆と考えられている。
詞書の裏面には、筆者名をしめす注記があり、後陽成天皇を中心とした皇族、朝廷内の主だった公卿・能筆家が名を連ねている。官名等から、慶長19年(1614)から元和5年(1619)頃までにわたって書されたものと考えられている。とくに近衛信尹(このえのぶただ)の息女太郎君と近衛信尋(のぶひろ)だけが、色紙形自体に署名していることから、画帖の制作依頼者を近衛信尹の周辺に求める説が有力である。