病草紙とは六道絵(人間が死後生まれ変わる地獄界・人間界・天上界など6つの世界を描いて因果応報の理を示す絵画)の一種で、生老病死の四苦のうち、病の苦しみを取り上げて、人々を教化するために描かれました。太った女が二人の付き添いに両脇を支えられて、やっとのことで歩いています。門前には、女の姿に驚く男たちや、我れ関せずと、赤ん坊に乳を含ませる母親が描かれています。詞書には、「京都の七条あたりに借上(高利貸)の女がいた。家が裕福で、美食大食を重ね、歩くのも困難なほどに太ってしまった。付き添いの女に助けられても、汗を流して歩くほどで、その苦しみはつきない。」とあります。ユーモラスな表現の奥に、鎌倉時代ならではの人間観察の鋭さが隠されています。