90年代初頭、天安門事件(1989年6月4日)の余波のなかで、若いアーティストは表現の不自由さや、美術家として先行きの見えない不安、矛盾にみちた体制への漠然とした失望感を抱えていた。当時画家としてスタートしたばかりのファン・リジュンは、そうした自分の立場と社会の雰囲気を鋭敏に感じ取り、表現した作家である。彼は、90年頃からスキンヘッドの自分をモデルに一連の油彩画を描き出した。奇妙に歪んだ顔をもつ男や不敵な笑いを浮かべる男。同じ男が一枚の絵の中に反復される。この現実にはあり得ない風景は社会の不条理を、幾つもの歪んだ同じ顔は、没個性を要求し、顔を歪ませる社会の不気味さを意味する。世の中を皮肉に表現する態度は「シニカル・リアリズム」といわれ、89年以降の中国現代美術界で主流をなした。彼はその旗手である。