自在置物の起源は江戸の中期。いまだ定かでないことも多いのですが、東京国立博物館に所蔵されている自在龍の顎の下に「正徳三癸巳歳六月吉日 明珍紀宗察 三十一暦 於武江神田作之」との刻文があり、この龍が1713年に作られたことが分かります。この他にも1753年にあたる表記の作品も現存しており、18世紀の始めから中頃には、こうした自在に動く置物が作られていたことが分かります。
自在置物を作っていたのは甲冑師と呼ばれる人たちでした。もともとは武士の甲冑、鍔、馬具などを製作していた人々です。前出の自在龍に記載のある明珍とは、室町時代から続く甲冑師の名家で、当初は関東を中心に活躍しましたが、江戸時代には北は弘前、南は高知に至るまで、分派が全国に広がっていたといいます。