1923年に写真家エドワード・ウェストンとメキシコに渡ったティナ・モドッティは、彼から写真の手ほどきを受け、本格的に写真に取り組んでいった。ウエストンが1926年にメ キシコを去ったあとも、彼女は残ってメキシコの風俗、美術、建物などを撮影し、その作品は美術雑誌や芸術評論誌に数多く掲載された。1927年にはメキシコ共産党に入党し、次第に政治活動に深く関わっていく。1930年にメキシコ大統領パスクアル・オルティス・ルビオ暗殺未遂計画に共謀したとされ、逮捕、国外追放となる。その後もベルリン、モスク ワ、パリ、マドリッドで革命運動に関わり、次第に制作から離れていった。 《スタジアムの外観》は、メキシコの女性文筆家アニタ・ブレンナーの提案に応え、メキシコの美術・建築・工芸の記録を残す事業として撮影された1点である。スタジアムの外壁と、はしごとして架けられた角材、それらが織りなす影の構成的な美を焼きつけたこ の作品からは、自然の事物の形態を見いだそうとしたウエストンの視線をたどることもで きる。だが、メキシコの都市空間そのものに、ティナはみずからの主題を発見し、独自の表現を成立させている。
(出典: 『名古屋市美術館コレクション選』1998年、P. 65.)