この作品を描いた1930年、三岸は独立美術協会の創立に加わっている。日本におけるフォーヴィスムの導入に決定的な役割を果たしたこの団体の創立会員の大半は二科会の出身者によって占められていたが、三岸はその作風と才能を認められて、ただ一人春陽会から会員に迎えられたのであった。実際このころの彼の作品は、道化師や曲芸師など、サーカスの登場人物を主役に、深みのある色彩を厚く画面に塗り込めたものが多く、その作風はしばしばルオーに例えられている。しかし、三岸にはルオーの世界が持つペシミズムや社会告発の調子はない。「静かに朗らかな雰囲気、又その内に浮漾(ふよう)する、或る唐突さを感じさせるグロテスクな、又ファンタスティックな感じ、さう云ふ味が、私の表現したいものである様な気がします」という1924年の文章に見られるように、彼の描く世界はある種の不可解さと鮮烈なリリシズム(叙情味)に常に満ちている。花瓶に活けられた花を描いたこの作品でも、暗い背景は百合の白さを際だたせるだけでなく、この静物画に不思議な幻想味を与えている。無造作に見えるほどの素早い筆致が、画面に生き生きとした躍動感を生み出している。
(出典 : 名古屋市美術館展示解説カード)
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