井戸茶碗の名称は江戸時代初期の井戸若狭守に因むともいわれるが、これは俗説でもっと以前から井戸の名称が茶会記に現れる。形などから大井戸(名物井戸)・小井戸(古井戸)・青井戸・井戸脇・小貫入などに分類される。
江州坂本城主明智光秀(1528?~1582)が所持したとの伝承があり、『天王寺屋会記』には光秀が井戸茶碗を使ったと記録されているが、この茶碗かどうかは不明。
箱表に「坂本 井戸」、裏に「閑事庵」とあり、江戸中期には坂本周斎(1666~1749)が所持していたことが知られる。
形は名物手井戸の典型的作例で、胴部の釉薬は厚く幕状の景色があり、轆轤あとが強く現れ、高台にはカイラギがきれいに見られる。腰から高台にかけての削り回しは素朴で豪快な趣があるなか、全体としては寂びたもの静かな雰囲気をかもし出している。