この釜は本来は香炉として作られ、後世、茶の湯釜に改作転用されたという異色の茶釜です。その経緯については胴まわりに記された銘文から判ります。銘は「伊勢山田常明寺香炉」「永正三年 八月日 大工葦屋行信」と胴の表裏に陽鋳で表わされていて、もとは伊勢山田の常明寺という寺の香炉として作られたことが判明します。製作年や製作者などもわかる芦屋関係の数少ない基準資料のひとつとしてもきわめて重要です。文様は輪口際に三つ巴文帯をまわし、腰に連珠文をめぐらせるだけの簡潔な意匠としています。底を付け替え、丸や長円形の穴をあけた三角形の鐶付を取り付けていますが、茶釜としては他に例をみないユニークな姿です。