第1回帝展出品作。多賀朝湖は、江戸時代の絵師、英一蝶のこと。元禄11年、一蝶が幕府の怒りにふれ三宅島に流された事件を主題としながら、流人となった一蝶ではなく、既に陸を離れた船を見送る人々に焦点をあてた群像表現となっている。左隻の涙にくれる老人に始まり、右隻右端の暖簾の陰からそっと様子をうかがう女性まで、総勢19名の老若男女がドラマチックに描き出されている。ひとりひとりの仕草や表情に加え、衣服や装飾品も丹念に描写されており、帝展出品作ならではの華やかさに満ちた作品である。
池田輝方(1883-1921)は東京に生まれ、水野年方に師事、風俗人物を得意とした。明治34年に結成された烏合会に参加、日本絵画協会・日本美術院連合絵画共進会で連続して一等褒状を受けるなど活躍した。同門でやはり風俗画を得意とした榊原蕉園と結婚。江戸時代、あるいは同時代の風俗に取材した華やかな屏風を文展に出品したが、帝展への出品はこの作品を最後とし、大正10年、39歳の若さで没した。