台座に腰掛けて左足を降ろし、右手の人差し指と中指を右頬に当てる、いわゆる半跏思惟(はんかしい)の姿の菩薩像です。これは悟りをひらく前の釈尊(シッダ太子)が瞑想にふける姿、あるいは釈尊の次に如来になることが約束された弥勒菩薩が修行中の兜率天宮で瞑想する姿ともされます。
多くの半跏思惟像は円筒状の榻座(とうざ)に腰掛けますが、本像は蓮華座に腰掛けています。本体は、頭が大きく胴体が華奢(きゃしゃ)な童子形で、腰を後ろに引き、萎縮気味に顎をつき出した姿勢にもあどけなさを感じさせます。一方、全体として、大きな框座から頭頂部へ向けてすぼまるように構成される錐体の輪郭に美しく収まることで、宗教的厳正さが感じられます。
壬辰年(六九二)銘のある島根・鰐淵寺の観音菩薩立像は、顔貌や框座形式などが本像と近似しており、本像の制作年代を考える上で参考になります。