1753年のサロン出品作。緻密なマティエール、絵具の光沢、落ち着いた中間色の色調、影の部分にも感じられるような繊細な光の表現、思索的で重厚な人物のたたずまい、室内の静謐で瞑想的な空気など、シャルダンらしい魅力にあふれる小品。
彼の約40年間にわたる作画活動は3つの時代に区分されるが、その中間期にあたる時代が「風俗画の時代」(1730年代から1750年代初め)である。シャルダンの「静物画」は、華麗で女性的な優美さを好んだ宮廷では人気がなく、一部の目利きや画家、収集家に支持されるのみであったが、この「風俗画」の顧客層には外国の有力な諸侯も名を連ねるようになった。この時期の最も代表的な作品としては、《独楽を回す少年》《食前の祈り》(ともにルーヴル美術館蔵)などがある。
シャルダンは、スウェーデンのルイーズ・ウルリック王妃のために1749年、《デッサンの勉強》と《良き教育》の2点を贈った。このうち先に完成したのは《デッサンの勉強》の方で、1748年のサロンに出品された。その数年後、彼は再びこの1対の絵と同じ構図をもつ2対目のヴァリエーションを描いている。こちらの2点は、著名な収集家アンジュ=ローラン・ラ・リヴ・ド・ジュリのために制作され、1753年のサロンに出品されたが、このうちの1枚が本作である。
本作は、1770年の競売でリヴ・ド・ジュリの許を離れ、あるスウェーデン人の手に渡った。以来その末裔によって長らく秘蔵されていたが、1979年の大規模な〈シャルダン展〉に出品され、人々の前に再び姿を現わしたのである。このとき、対をなす《デッサンの勉強》と《良き教育》の額縁には非常に珍しい特徴があった。作者の名前である〈シャルダン〉の文字が、明らかに18世紀のものと分かる黒く美しい書体で記されていたのである。
今日、世界の美術館で行われているような「額縁に作者名のプレートを付ける」というような習慣は当時なかったので、最初の所有者であったリヴ・ド・ジュリが施したこのような処置は、博物館学的にみても先駆的な作業であったと評価される。なお、この秘蔵コレクションの中に含まれていた本作と対をなす《良き教育》の方は、現在テキサスのヒューストン美術館に収蔵されている。
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