歌川国芳(1798–1861, 江戸日本橋生まれ)は、幼少期から絵を学び、10歳を過ぎて描いた作品が初代歌川豊国の目に留まり、15歳で豊国に入門したと伝えられます。役者絵、美人画、武者絵、春画、風景画など幅広い画題に取り組み、とりわけ横長の三枚組を一つのワイドスクリーンとして捉えたパノラマ表現の錦絵は、国芳ならではの独自表現として知られます。巨大な鯨と宮本武蔵の戦いを三枚続きで描いた『宮本武蔵と巨大鯨』や、巨大な骸骨とそれを操る滝夜叉姫を描いた『相馬の古内裏』はその代表作です。また、機知に富んだ戯画も多数残しており、蛸と熊の相撲図や金魚を擬人化したユーモア表現など、近代漫画につながる先駆的作品も手掛けました。さらに、幕府を面白おかしく風刺した作品も数多く制作しています。
本作は、当時人気を博していた歌舞伎演目『傾城反魂香』の「吃又の段」に取材したもので、中央には大津絵師・又兵衛に扮した国芳自身が描かれています。幕府の改革により役者絵が禁止されていた時期に、大津絵のキャラクターが登場する歌舞伎の一場面を間接的に描いた作品です。紙を舞い上げて顔を隠しつつも、そばに猫を添えることで、この絵師が国芳であることを観る者に印象づけています。国芳は生涯を通じて大の猫好きであったことでも知られています。