「女房を質においても食べたい」ほど江戸っ子が熱狂した初鰹は、現代の価値で一本数万円にのぼる高級食材。大事な売り物をとんびにかすめ取られ、慌てて天秤棒で追い立てる魚売りは、犬も鰹をくわえて逃げていくのにまだ気づかない様子。三代目広重がコミカルに描く日本橋の風景です。築地から豊洲に移転した魚市場は元は日本橋にありました。江戸城に献上した魚の余りを漁師が売ったのが始まりで、関東大震災までの長きにわたり、お江戸の魚市場は日本橋~江戸橋間に栄えました。本作は鰹で初夏の季節感を表す従来の浮世絵手法を取りながら、三菱の社章のついた赤煉瓦倉庫やガス灯・馬車鉄道の線路など、明治の風物が巧みに描き込まれた楽しい開化絵です