この作品は『源氏物語五十四帖』の中から、人口に膾炙した「若紫」と「須磨」の巻に取材したものです。右隻は、光源氏が若紫を見初める場面で、幼い若紫の成長後の姿が、傍らに立つ侍女の気品と美貌に仮託されているかのようです。左隻では、須磨に配流された光源氏が、雁の飛ぶ秋の満月をめでながら伴の者と歌を詠み交わしています。色紙などの小画面で土佐派が得意としてきた題材を、漢画的な構図法を採り入れて大画面に解き放ち、劇的な効果を創り出しています。土佐光起は、このように土佐派に漢画の技法を加味することで新風を吹き込み、宮廷絵所預となりました。