東京美術学校日本画科第1期生横山大観の卒業制作。花鳥風月画、歴史や仏教説話などに題材を求めた作品が多い当時に、軽妙洒脱な逸品。
ひとりの翁、11人の子供、牛、猿、葉の生い茂る樹木、枯木、倒木、草花、笹、土破などを、一画面に盛りだくさんに描き込んだ力作。この画題について大観は、「あの作品に描いた猿廻しの翁は、橋本先生に見立て、村童11人は、同期の11人の幼な顔を想像して描いたものです。」(『大観画談』p. 30)と記している。画面の中心はしかし、広い空間を背景に黒牛に乗る赤衣の猿である。この構図故にこの作品に関して様々な解釈が試みられてきたが、それは見る人の想像力に託したい。東京美術学校草創期の絵画担当教官は、狩野派の橋本雅邦、円山派の流れをくむ川端玉章、大和絵の系譜に連なる巨勢小石その他であった。この作品はどの流派にも偏ることなく、全てを統合あるいは折衷しつつ、かつ、西洋画のような奥行きを採り入れている。これは岡倉天心の唱えた「新按」の具現化であり、大観が近代日本画の劈頭に位置づけられる所以を示す一例である。(執筆者:薩摩雅登 出典:『芸大美術館所蔵名品展』、東京藝術大学大学美術館、1999年)