第3回内国勧業博覧会出品作品。画面下部の水墨画のような厳格な画面構成と、上部の配色の妙による空間表現が対比されている。
画面下半分の瀑布、水流、岩石、樹木だけを見れば、固い描線と墨の濃淡を巧みに用いた伝統的な山水画で、橋本雅邦が江戸木挽町の狩野勝川院雅信門下の筆頭であったことが肯ける。しかし上半分は緑樹と紅樹の向こうに白雲たなびく幽遠な渓谷の風景で、この対比に作品の明快な意図がみてとれる。作者の力点は題名からして言うまでもなく上半分で、白雲の上部には金泥で金雲を描き、緑の下には金粉をまくなど、空間の表現に細かな創意工夫を凝らしている。作者は岡倉天心に共鳴して、形骸化した狩野派に新風を吹き込み、日本画の革新を試みていた。本作はその成果のひとつで、確実な伝統技法と西洋画の遠近法や明暗法を参考にした空間表現を大胆に対置させて、新しい境地を切り開いた。自己に明確な課題を課した正攻法的な作品だが、岩の上で涼を取りながら観瀑に紅葉を楽しむ2匹の猿に作者の余裕が感じられる。(執筆者:薩摩雅登 出典:『芸大美術館所蔵名品展』、東京藝術大学大学美術館、1999年)