韓国のように、東洋的な感性と欧米モダニズムとを高度に融合させた独自の抽象絵画を生み出した地域は、全アジアでも稀である。その中でも、このキム・ファンギは、1930年代には先駆的な幾何学的抽象を制作し、1970年代まで、一貫して純化された抽象形態を求めた重要作家である。彼は日本に留学しヨーロッパのモダニズムを学んだが、のちに梅や壺など伝統絵画のモチーフを用いて、叙情的かつ造形的緊張感の高い画風を確立した。しかし彼はそこに安住することなく、パリやニューヨークで新境地を開拓し続けた。この「全面点画」といわれる手法による最晩年の作品では、ふぞろいの色の点が画面に心地よいリズムを作りだし、点の余白でできた直線が画面の縁を越えて広がっていく。この画家が最後に到達した、宇宙的ともいえる豊かな空間がここにある。