近代化をすすめるロシアにおいて起こった、ロシア革命と並行する1910年代から20年代にかけての急進的な美術運動は、一般にロシア・アヴァンギャルドと呼ばれる。ロシア革命を記念し、その理念をひろく一般大衆に知らしめるために、広場等の公共空間が装飾され、政治的なメッセージを含んだポスター等が制作された。テキスタイルデザインの分野も例外ではなく、こうしたいわゆるプロパガンダ(煽動)芸術として、特色ある作品群を生み出した。当館収蔵のロシア・アヴァンギャルド期のデザイン画74点、テキスタイル14点には、プロパガンダ的な内容のものと抽象的デザインという二つの傾向が見いだせる。革命後のソビエト国家が目指した工業化された社会を象徴するものとして、鍬や歯車、トラクターや、電線、ダム、工場など極めてユニークなモティーフが盛んに取り上げられた。その一方で、幾何学的なモティーフを組み合わせた抽象的デザインも同時に制作されている。
ヴェラ・ロトニーナ(1910-)によるテキスタイルは、ロシアの艦隊と海軍の兵隊をとりあげたもので、厳選された色遣いと、幾何学的形態に処理された人物、軍艦等のモティーフのリズミカルな組み合わせが印象深い一点である。