本作品は、1884年からピサロが定住するエラニーの教会と農園を描く。手前の草地や教会の建物の壁あるいは屋根を、ピサロは垂直に並べた筆致で、また教会の前に高くそびえる樹木を、斜めに重ねた筆づかいで表現している。さらに草地の中央には明るい緑の色彩が、教会の尖屋根を囲む樹木には深い緑の色彩がそれぞれ筆致にあたえられ、筆触と色彩の対比も試みられている。筆致の並列が強調されている点、また草の広がりや、建物、そして樹木が簡素なかたちに表現されている点に、セザンヌ芸術の影響を指摘できる。
当館には、本作品と同じ84年に制作されたクロード・モネ《ジュフォス、夕方の印象》(群馬県企業局寄託作品)が収蔵されている。モネ作品との比較は、本作品にみられる、セザンヌを思わせる筆致の強い効果、大半が青を含む空の描写のなかで、左下に加えられた緑色の筆の動きなど、ピサロ独自の意欲的な試みを明らかにしてくれる。ピサロは83年にシニャックと、そして85年にスーラと出会い、科学的な思考にもとづいた新印象主義の表現にひかれ、一時期点描を用いた作品を描くなど、印象主義にとどまらず新しい芸術運動に関心を払っている。実験的な試みに満ちた本作品は、当時のピサロの関心を伝える貴重な作品である。