大正から昭和の初めにかけて、鳥瞰図(ちょうかんず)が流行した。鉄道が整備され、長距離の移動が容易になったこともあり、観光ブームが到来した頃のことである。全国各地で、周辺の観光地や鉄道などを描いた観光地図が制作された。通常、これらの観光地図は、裏面には観光案内なども印刷され、折り畳むとポケットに入る程度の大ききになる形で販売されていたようだ。
本図は、昭和10年代前半の福岡市とその周辺を描いた鳥瞰図の原画である。当時の鳥瞰図の特徴は、文字通り「北は樺太、北海道から、南は沖縄、台湾まで」を一つの画面に描いてしまうような極端なデフォルメにある。福岡を描いた図にも遥か彼方の富士山や東京まで描かれている。このような鳥瞰図の第一人者が吉田初三郎(よしだはつさぶろう)である。しかし、昭和10年代の後半になると、軍事上の理由から、高い場所から撮影した写真などは公にすることができなくなり、絵はがきの発行にも検閲が入るようになった。同じ理由から、周辺の地形や目標となる建築物などが記された鳥敵図も制作できなくなったようだ。
【ID Number1984P11804】参考文献:『福岡市博物館名品図録』