スペインの市場: 見て、嗅いで、触って購入する

20 世紀初頭に賑わったスペインの市場ですが、現在では地元の食材や料理、気楽に訪れる場所になっています。スペイン全国の都市にある、五感に訴えかけるさまざまな魅力に溢れる市場は、訪問者を引き付ける観光スポットとして人気を集めています。

Central Market of Atarazanas(1876/1879)スペイン王立ガストロノミー学会

市場の起源

19 世紀後半から 20 世紀初頭にかけて、スペインには食材市場が点在していました。その大半は農場で収穫された生産物を地元の住民に提供する露店が設置されているだけのものでしたが、家畜の繁殖農家や漁師にとって最も重要である衛生条件が改善され、商品が乱雑に積み上げられた混沌とした状態から生まれ変わりました。

San Miguel Market(1916)スペイン王立ガストロノミー学会

こうした市場の多くは、パリのレ ザール市場のような美しいヨーロッパの建築物に触発された真の芸術作品と言えるものです。大きな窓や金属製の構造体を持つ建造物は、マドリードのサンミゲル市場やパレンシアの市場において再現されています。その後、コンクリートの開発に伴ってさまざまなスタイルが登場し、スペイン国内の市場はそれぞれ独自の特徴を持つようになりました。

Boquería Market(1840)スペイン王立ガストロノミー学会

色と味の饗宴

市場ができたころからの店が軒を連ねて果物、肉、魚介類などを売り、見た目や香り、味といった五感で感じられる魅力に溢れた環境を訪問者に提供しています。

Boquería Market(1840)スペイン王立ガストロノミー学会

市場には独特の匂いや独特の音があります。たとえ目を閉じていても、自分がどこにいるのかはっきりとわかるでしょう。それぞれの店には、質を確認できるよう農産物が並べられています。最高の品種や新鮮な魚、そして上等な肉は、見るだけでその質の高さがわかるはずです。

Boquería Market(1840)スペイン王立ガストロノミー学会

市場に並ぶ店の活気に満ちた喧騒にみずみずしい果物が彩を与え、チーズやおいしそうな炭火焼肉、卵、無造作に置かれた野菜、パン、甘い菓子なども目に入ってきます。これらは伝統的な市場に見られる特徴的な商品です。今日では輸入品やオーガニックの店も並び、また、1 種類の製品に特化して新しい需要に対応する店もあります。

Boquería Market(1840)スペイン王立ガストロノミー学会

文化や料理が混ざり合う場としての市場

人々が物々交換を行って生活していたはるか昔から、商業交流は町や村を社会的に結ぶ重要な要素でした。その結果、市場は常に家事を担う主婦や料理人、観光客やその家族にいたるまであらゆる社会の人々が集まる会合の場となって文化の流れを作り出し、人々の生活を豊かにしてきました。

Vegetable stall at Bretxa Marketスペイン王立ガストロノミー学会

市場で商品を購入することの大きな利点の 1 つとして、客が農産物に関する質問を売り手にすることができ、また店も専門的な知識を共有できるということがあげられます。このような売り手と買い手の密接なコミュニケーションは大型店では失われてしまいましたが、持続可能な農業を続けるための中心となる新鮮な地産品に関する地域の知識を普及させるために役に立つものです。

Central Market of Valencia(1914/1928)スペイン王立ガストロノミー学会

都市景観の一部としての市場

スペインでは、市場が新たな観光スポットになっています。これは、市場内で行われている活気に溢れた売り買いだけではなく、芸術的な建築物が持つ魅力によるものです。たとえば、アールヌーボーの建築運動は、バレンシアにあるクロン市場や中央市場、バルセロナのラ ボケリアなどといった一部の建物にその特徴が現れています。

Central Market of Atarazanas(1876/1879)スペイン王立ガストロノミー学会

ネオ ムーア様式の建築は、サラマンカ市場の馬蹄アーチやセラミック タイルなどにも見られます。他にも、たとえばマラガのアタラサナス市場には 14 世紀のナスル様式の扉が残されています。

Salamanca supplies market(1922/1925)スペイン王立ガストロノミー学会

Central Market of Zaragoza(1903)スペイン王立ガストロノミー学会

そして、スペインの市場で最も特徴的なのはいわゆる「鋳鉄建築」です。こうした建物はヨーロッパ、特にパリからもたらされたデザインに影響を受けており、明るく中まで見通せる大きな金属製の支柱構造を持ち、天井が高いのが特徴です。マドリードのサン ミゲル市場、サラゴサの中央市場、バジャドリッドのバル市場、パレンシアの市場などがこの好例です。

Torrijano y Varas fruit shop, Vallehermoso Market(1930)スペイン王立ガストロノミー学会

衰退と復興

時間の経過とそれに伴う社会の変容に伴い、家庭における消費の形態は変化しました。目まぐるしいペースで進む 21 世紀の社会では、大型店の増加と、そして最近では電子商取引によって、都市部での生活の中心に市場が見当たらなくなってきています。

The Abad Brothers, fish and seafood, Vallehermoso Market(1930)スペイン王立ガストロノミー学会

市場は衰退の一途をたどり、残念ながらその多くは閉鎖されました。しかし近年、料理、文化、観光の中心地としてスペインの市場が復興しています。地方議会では、廃止された各種の商業スペースを改装して新たに開業するための努力をしており、住民は異なる業種間の相互作用に注目しています。

Event in Cebada's Market in Madridスペイン王立ガストロノミー学会

市場の再生は大規模な取り組みであり、市場にある普通の露店よりも創造的な店のありかたを示した人々の参加によって実現するものだと言えるでしょう。

料理教室、子供向けのコース、音楽、ダンス、ファッションなどといった他のアクティビティを組み合わせた各種の催しは、今やレジャーの場となっているスペインの各市場における新たな楽しみです。

Vallehermoso Market(1930)スペイン王立ガストロノミー学会

何よりも、市場の復興に関する最大の変化はその調理場から生まれています。料理人が店を開き、訪問者は市場で買い物をするだけでなく飲食を楽しむこともできるようになりました。

実際にそういった店では露店で販売されている農産物が使用されることが多く、持続可能な素晴らしい循環を生み出しています。

Di Buono, Vallehermoso Market(1930)スペイン王立ガストロノミー学会

小規模な生産者や職人と並ぶ伝統的な露店の中には、カジュアルで手軽なストリート フードを提供する店も現れています。

マドリードのバジェエルモソやサン アントンの市場は、この形態の一例だと言えるでしょう。

Central Bar by Ricard Camarenaスペイン王立ガストロノミー学会

著名な料理人もこれらのスペースを有効に活用しており、バレンシアの中央市場にあるリカルド カマレナのセントラル バー、マドリードのサン ミゲル市場にあるロドリーゴ デ ラ カジェなどがあります。

他の料理人も日々の市場で活動しており、サン セバスティアンのラ ブレチャ市場にあるクレアンド コシーナでの料理の実演など、生産者、料理人、顧客の関係性を向上させている例もあります。

Boquería Market(1840)スペイン王立ガストロノミー学会

こうした復興を通じて、スペインの市場はその本質を失うことなく存在し続け、料理と文化の橋渡しとなって次の世代に伝統を引き継ぐという役割を担っています。

提供: ストーリー

テキスト: シルビア アルタサ氏

画像: バジェエルモソ市場(マドリード) / マラガ市役所内観光課 / サンミゲル市場(マドリード) / ボケリア市場(バルセロナ) / ラ セバダ市場(マドリード) / セントラル バル(リカルド カマレナ) / スペインの食とワイン / スペイン貿易投資庁

謝辞: ラファエル アンソン氏(スペイン王立ガストロノミー学会代表)、エレーナ ロドリゲス氏(スペイン王立ガストロノミー学会ディレクター)、マリア ガルシア氏およびキャロリーヌ ヴェルイーユ氏(いずれもスペイン王立ガストロノミー学会貢献者)

スペイン王立ガストロノミー学会

この展示は、スペインの食文化について取り上げた Google Arts & Culture とスペイン王立ガストロノミー学会による共同プロジェクトの一部です。

提供: 全展示アイテム
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