世界一の魚市場は、今日も営業中 知られざる豊洲の1日

海に四方を囲まれた島国、日本。豊かで力強い潮が魚をたくましく成長させる海は、北から南まで、それぞれ個性を持っています。そんな全国の魚や野菜が集まるのが、世界一の取引高を誇る豊洲市場。日本の食の代名詞ともいえる市場の1日を、魚にフォーカスしてのぞいてみましょう。

マグロのセリの様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

築地から豊洲へ。心機一転の魚市場

豊洲市場水産物部のルーツは、さかのぼること江戸時代初期。日本橋で生まれた魚河岸は、1923年に大きな被害をだした関東大震災を経験し、築地へ移動。1935年、中央卸売市場(左)として誕生しました。そして2018年10月11日、築地市場の1.7倍の広さをもつ現在の豊洲市場(右)で新スタートをきりました。施設は水産の卸売場棟と仲卸売場棟、青果棟の3か所です。近年日本人の魚離れが叫ばれているとはいえ、その圧倒的な存在感は健在! 毎日約1,400トンもの魚が運び込まれては、高級レストランから私たちの食卓まで届けられるのです。

マグロのセリの様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

0:00~ 真夜中も市場は動く

1日の始まりは、それぞれの業者によって違うのが豊洲。前日の昼過ぎから夜中まで、全国各地から生鮮食料品を積んだトラックが到着します。マグロの卸売場にも、続々と巨大なマグロが到着。一方、セリ(競売、オークション)ではなく1対1で交渉をする「相対売り」の取引はなんと午前0時から。活きのいいアジやイワシをめぐり、プロ対プロの交渉戦が続きます。

豊洲市場に届くマグロ(2019)出典: 東京都中央卸市場

5:00 国民の魚、マグロが一挙集結

鮮魚のセリが始まる4:30に続き、朝5:00にはウニなどのセリがスタート。そんなほんのり空が色づく頃に、市場の花形である、マグロのセリの準備が佳境を迎えます。高級品として知られる芳醇なクロマグロから寿司や刺身向けのミナミ、そしてさっぱりした脂のキハダ。さらにメバチにビンチョウなどなど。縄文時代から日本で食べられていたマグロだけに、年間を通し、海外をはじめ全国各地から様々な種類がやってきます。

マグロのセリの様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

5:20真剣な目が光る下見タイム

セリへの参加が許されるのは、仲卸業者とスーパーなどを経営する売買参加者。セリが始まる前は、並べられたマグロたちを前に下見を行います。マグロが重いため銛を使って様子を見る人がいれば、必死にメモをとる人、なにやら密談をする人も。マグロのしっぽを切った断面をみて、品質を吟味。そんな様子を、建物2階の見学通路と、抽選で当たった者のみ入れる専用の見学デッキから見学者たちが見守っています。

マグロのセリの様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

5:30 いざ、セリ本番!

5:30にベルの音が響き渡ると、いよいよセリがスタート。ラップ音楽にもお経にも似た、セリ人のリズミカルな掛け声が会場を満たしてきます。毎日生マグロを約200本、冷凍は約1000本をさばくセリ人たちは、卸売業者の社員の中から選ばれ東京都の試験を通った者のみ。買い付ける仲卸業者が希望落札価格を示すフィンガーサイン、通称「手やり」も、傍目からは分からないほどさり気ないもの。

マグロのセリの様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:00 買い手のもとへ送り出す

迫力に圧倒されているうちに、セリはあっという間に終了。生マグロから冷凍マグロへとセリが移っていく間にも、1本1本箱に詰められ、鮮度を保つため大量の氷で包まれます。隣の棟で待つ仲卸業者等のものへと次を急ぎます。

連絡通路を通るターレ(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:10 連絡通路は大忙し

以前の築地市場は、屋根と柱を主とした開放型の建物だったので外部・内部の区別がなく、外の気温に左右されやすい構造でした。一方、豊洲市場は閉鎖型施設のため、すべての機能が建物内に納まっています。水産卸売場と仲卸売場を結ぶ連絡通路は、合計4本。卸売場の温度は10.5度、仲卸売場は25度に保たれ、衛生面も安心。近年どんどん暑くなる東京の夏や、水を扱う人々泣かせの厳冬が、飛躍的に快適になりました。連絡通路も、センサーで開閉できるという徹底ぶり。そのこだわりに、世界一の魚市場のプライドが透けてみえるよう。

豊洲市場 朝の仲卸の様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:15 お客さんもぞくぞく豊洲へ

海のそばに位置し、運河や公園に囲まれた市場へ、料理人たちも姿を現します。以前の築地市場までは、車で10分ほど。移転当初は渋滞などの問題もあった豊洲ですが、徐々に解消されていったそう。

仲卸市場(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:23 仲卸売場が活気づく

観光客は一切立ち入ることのできない、仲卸売場。室内封鎖型の建物のため、排気ガス等をださないようターレはすべて電動に刷新。ターレが行き交う活気ある風景が、「時間通り指定の場所に送る」という物流の基本を表しているよう。ターレは小型ですが、1~2トンの荷物を楽々運べる力持ち。その重量に耐えられるよう、車輪は空気タイヤではなく丸ごとゴム製になっています。運転には小型特殊自動車免許が必要なターレは、公道も走れるれっきとした車なのです。

豊洲市場 仲卸の様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:30 料理のプロに信頼される、魚のプロ

なんと1574コマが立ち並び、487の業者が営業している水産仲卸売場(2019年7月1日現在)。それぞれの店舗で特色があり、マグロのみを扱うお店から甲殻類が得意なお店まで様々です。世界中の美食家が訪れる東京で腕をふるうシェフたちを待ち構えるのは、細かな質問にも答えられる魚のプロフェッショナル。シェフたちのニーズにあった魚を提案できる、目利きのすごさも自慢です。

仲卸「越虎」の栗原さん(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:40 高級マグロ専門「越虎」の朝

「やっぱり、マグロは魚の王様」と話すのは、マグロ専門の仲卸業者「越虎」代表で、マグロの業者で作る大物業会の副会長も務める栗原さん。「高級魚として知られていますが、日本でずっと愛されている魚ですからね。そして、資源管理といった点でも重要。色々な意味で、語ることの多い魚です」。1975年から40年の間に、約2倍も増加した世界のマグロ類漁獲量(FAO統計)。マグロ文化を守っていくために、資源管理が必要と話してくれました。

マグロの解体(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:45 専用包丁でマグロを切り分ける

仕入れたマグロを切り分けることも。切る位置を慎重に見極めたら、刃をおろすのは一瞬。60センチもある長い刃を身に入れると、大きな音が。説明をしてくれつつも、刃捌きは素早く正確な栗原さん。刃の先端上部にはストッパーがあり、自分の手を切らないよう工夫が施されています。

マグロの解体用の包丁(2019)出典: 東京都中央卸市場

6:50 道具さえも美しい、豊洲の一場面

日本橋時代から続く屋号、「越虎」の銘が入った美しいマグロ包丁。この細い刃は、より細かく切り分ける作業に使われます。反対にマイナス60℃の冷凍マグロを切るのは、なんと電動ノコギリ! 受け持ちのお客さんにあわせ、最適な形でマグロを届けます。

仲卸組合 難波社長(2019)出典: 東京都中央卸市場

7:20 天ぷらネタ専門「ナンバ」の一日

次に訪れたのは、豊洲でも珍しいという天ぷらの魚介を専門に扱う「ナンバ」。江戸前専門の店は、日本橋~築地から続く、長い伝統を誇ります。難波社長が出勤するのは、東京の夜がやっと落ち着く午前1:45。注文のFAXをまとめ、セリで何を買うか計算することから始まります。卸売場に向かうのは2:00。その30分後には相対取引のアナゴを仕入れに行くなど、いきなりのハードワーク。

豊洲市場 届いたばかりのアナゴ(2019)出典: 東京都中央卸市場

7:20 江戸前の代表格、アナゴもスタンバイ

生け簀で元気な姿を見せているのは、アナゴの代表とも言える江戸前もの。天ぷらにも寿司にも欠かせません。鮮度が重要なため、活けの状態にしてお客様の注文を受けてから締めるようにしています。「築地時代は開放型の施設だったため、作業中水が冷たくて手が凍えていました。でも豊洲は完全室内閉鎖型なので、気温が安定している。初めての冬は本当に快適でしたよ」

仲卸組合 難波社長(2019)出典: 東京都中央卸市場

7:30 熟練のアナゴさばきで「おもてなし」

ウナギと同じく骨が3角形になっている珍しい構造をもつアナゴだけに、身の開き方もユニーク。頭の部分を目打ちでまな板に固定したら、関東流に背側から包丁を入れ、内臓をすきとり骨を外します。処理を頼まないお客さんもいますが、「満足してもらえるように、おもてなしの気持ちでやっています」と難波さん。

8:00 豊洲に移っても変わらないもの

11:00頃の店じまいまで、お店に立つ難波さん。「豊洲に移っても、商売的にはあまり変わりませんね。お隣のお店たちも、一緒にこの区画に引っ越してきた築地時代からのご近所さん。また、私たちのお客さんのお店そのものを誉められると格別嬉しいことも、昔から変わりません」

豊洲市場 朝の仲卸の様子(2019)出典: 東京都中央卸市場

11:00 石畳、ゴム長、買い物カゴのある風景

築地から豊洲に移転し変化は多々あれど、美味しい魚にかける想いは同じ。さらに変わらないのは、水に濡れて光る石畳や、買出人も履くゴム長(長靴)。竹で編まれた買い物カゴ、そしてなにより威勢よく働く人々。豊洲になっても、魚市場の風景は受け継がれています。

豊洲市場 芝生の美しい屋上(2019)出典: 東京都中央卸市場

12:00 新しい魚に出会うまで、また明日

お昼にプロたちの仕事が終わっても、観光客にはお楽しみがたくさん。寿司などを満喫できる飲食店にはじまり、魚の展示コーナーやプロ仕様の道具が手に入るお店など、豊洲市場には様々な施設が軒を連ねています。芝生が美しい屋上で、一息つくのもよし。日本の食文化を探りに、豊洲市場へ足を運んでみませんか?

提供: ストーリー

協力:
中央卸売市場豊洲市場
東京魚市場卸協同組合
SAVOR JAPAN

参考資料:
特別企画展 解説ノート「マグロ好き。」(一般財団法人 東京水産振興会 2018年)
「築地市場 クロニクル完全版1603-2018」(福地享子著 朝日新聞出版 2018年)


写真:中垣 美沙
執筆:大司 麻紀子
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
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