クッキング・パパ | 著:うえやまとち / ©︎ 講談社(2019)農林水産省
食の和洋中も主人公の立場も問わず、食べ物がテーマの漫画が数えきれないほどある日本人。
情話のみならず、文化や伝統、環境問題や社会問題など食にまつわるあらゆることが描かれた食漫画を読んで、登場キャラクターたちと一緒に泣いて笑った人も多いはず。日本料理から酒、アイヌ族の食文化から家庭の味まで、おなかがすくこと必至の8作品をご紹介します!
味いちもんめ | 原作:あべ善太、作画:倉田よしみ /©︎ 小学館(2019)農林水産省
味いちもんめ
食べる側の姿勢も正す、料亭漫画の金字塔
TVドラマにもなり愛された、板前のリアルな生活がわかる大人気作。負けん気が強いけれど、素直で快活。そんな料理人見習い、伊橋の成長とともに、周りの人々の人間ドラマも欠かせません。伊橋がおくる料亭『藤村』や各地の料理屋での毎日が、板前として大切なもの、そして人として大切なものも教えてくれます。ある常連客が連れてきた女の子がマナーもなく、周囲を不快にさせたときにもう一人の常連、円鶴師匠が放った言葉がこちら。『そいつに必要なのは箸づかいじゃねぇ。もっと人間として大事なもの…気遣いが欠けちまっているんだ』。痛快な気分になるともに、思わずドキっとしてしまいそう。
クッキング・パパ | 著:うえやまとち / ©︎ 講談社(2019)農林水産省
クッキング・パパ
家族と料理が大好きなパパは、みんなも大好き!
身体もビッグなら、心もとびきりビッグ。福岡を舞台に、そんな荒岩一味パパが何よりも愛する「美味しいものを食べる家族の笑顔」のため、周囲を巻き込みながらホームクッキングの腕を振るう物語。なんと150巻目という、超ご長寿漫画です(2019年8月時点)。初めて発表された1985年は、まだまだ日本で男性がキッチンに立つことなど珍しかった時代。キャリアウーマンの妻、虹子を支える素晴らしい家事スキルも当初一味パパは隠していましたが、今では水を得た魚のように嬉々として同僚にも手料理を振舞います。その姿は日本の頼れるビッグダディ。毎回最後につくレシピも必見。
夏子の酒 | 著:尾瀬あきら / 講談社(2019)農林水産省
夏子の酒
有機農法の酒造りを夢みた、一人の女性
今も居酒屋で愛されるヒロインといえば、本作の主人公の夏子。日本有数の米どころ、新潟の小さな酒造の娘だった夏子が、亡き兄の夢を果たすべく奮闘します。その夢とは、化学肥料を使わず有機農法でしか育たないという幻の米、「龍錦」で日本一の酒を造ること。連載が始まった1988年は大量生産農業の全盛期。日本の食の未来に警鐘を鳴らした作品のとしても知られますが、日本酒造りの裏側も見逃せません。作中の『和醸良酒』という言葉は、「和はいい酒を醸し、いい酒は和を醸す」という意味で大勢で行う酒造りを象徴しています。ふんわりとお米が薫る一献の酒に込められた、造り手の想いを味わって。
すしいち!| 著:小川悦司 / リイド社(2019)農林水産省
すしいち!
寿司を生んだ、活気ある江戸へタイムスリップ
もはや世界の共通語ともいえるSUSHI。今は高級店も数あれど、そのルーツは江戸時代に誕生したいわばファーストフード的なスナックでした。そんな江戸の寿司屋横丁を盛り上げるのが、江戸城の元御膳料理人で『人の“心”を握る』と称される天才寿司職人、その名も鯛介。彼を中心に繰り広げられるヒューマンドラマがみどころです。喧嘩っ早いけれど愛嬌たっぷりの江戸っ子たちの生活や、鯛介の寿司を食べた人が美味しさのあまり寿司に抱かれる、といった漫画ならではの派手な表現方法も痛快無比。より寿司や魚についての知識を得たい人は、『将太の寿司』や『江戸前の旬』もおすすめ。
福家堂本舗 | ©︎ 遊知やよみ / 集英社(2019)農林水産省
福家堂本舗
3姉妹がおくる、甘くてほろ苦い京菓子の世界
京都で450年の歴史を持つ老舗和菓子屋『福家堂』に生まれた3姉妹の、伝統あり恋心ありのストーリー。しきたりを重んじ、ガイドブックにも載せない本物の老舗らしく、作られる和菓子はほっこりはんなりとした佇まい。『この菓子と並べたら 小手先でつくった派手なだけの菓子なんて ほんまに野暮ったく見える』とは、福家堂の菓子を「地味だ」といった若き職人を、次女のあられが諭した一言。内乱や飢饉、戦争を乗り越えてきた古の都で、時代を超えて商いをするには相当の心意気が必要なのです。さらに辛辣な嫌味も、柔らかい京都弁だと心地よく聞こえてしまう⁉ そんな京都弁マジックにも注目を。
ゴールデンカムイ | ©︎ 野田サトル / 集英社(2019)農林水産省
ゴールデンカムイ
神そのものである自然へ、アイヌが捧げる『ヒンナ』
混乱が続く明治時代末期、極寒の北海道。食漫画というより隠された金塊を巡るバトルがメインですが、主人公の杉元と行動をともにするアイヌの少女、アシㇼパが伝える同民族の食文化が興味深い。アイヌの人々にとっては、ウサギの目玉も仕留めた者だけが食べられるご馳走。万物に神が宿ると信じ感謝を捧げ、生き物のすべての器官を大切に頂く古来の自然観を持ち続けるアイヌ族の姿から、現代の私たちが学ぶことはたくさんあるはず。アシㇼパが食事中、笑顔で言うアイヌ語の『ヒンナ』とは、食べ物に対する感謝の言葉。「神を食して生かされている」。そう思って毎食を頂きたいもの。
孤独のグルメ | 著:久住昌之、作画:谷口ジロー / 扶桑社(2019)農林水産省
孤独のグルメ
男のグルメには、SNS映えも小粋な会話もいらない
『ああ なんてことだ 食べ始めているのに さらに腹がへっていくかのようだ』。そんな食いしん坊な中年サラリーマンが、仕事の合間に立ち寄る大衆料理店、いわゆる「めし屋」でただひたすら、1人称のみで、つまり1人だけで食事をするという異色かつ意欲的な作品。食べる料理は、必ず「○○県○○市○○のおまかせ定食」と細かく記載されているので、モデルになった店の「聖地巡り」をする人も。単行本はたった2巻にも関わらず、ドラマ化され多くの国で翻訳されています。食べ合わせなどのささやかなマイルールにのっとって、一口一口をじっくり堪能する。そんな美食道も、いいじゃない。
きのう何食べた? | 著:よしなが ふみ / 講談社(2019)農林水産省
きのう何食べた?
温かいご飯と大好きな人が、おうちで待ってる幸せ
仕事で嫌なことがあっても誰かと喧嘩しても、一日の最後に愛情たっぷりの(しかも節約)料理が食べられれば「ま、いいか」と思ってしまう。もしかしたら、理想の毎日なんてそんなものなのかもしれません。『うまいだろ? あまからすっぱいのバランスがとれてて一品一品の味もいい!』という家庭料理のお手本を作るのは41歳の弁護士、シロさん。同性愛者である彼のパートナーで一緒に暮らすケンジとの、炊き立てご飯の湯気が彩るほのぼの生活が描かれています。話の約半分は調理中の描写で占められており、美しく描かれるおひたしや炊き込みご飯、煮物などはまさに日本食の原点。
写真掲載協力:
小学館
講談社
リイド社
集英社
扶桑社
SAVOR JAPAN
執筆:大司麻紀子
編集:林田沙織
制作:Skyrocket 株式会社