原田佳南子さんが香川県三豊市に移住してきたのは、約1年半前のこと。海外からの観光客や県外からの旅行者に向けて、「讃岐うどん文化と瀬戸内の魅力」を発信すべく奮闘しています。原田さんが支配人として働くのは、三豊市豊中町に昨年秋オープンしたばかりの、その名も「UDON HOUSE」。ここは「うどん」をキーワードに、地域と触れ合いながら本格的な讃岐うどんについてを学ぶことのできる体験型宿泊施設です。
大学卒業後、旅行会社で働いていた原田さんは、数年前に地域振興の仕事で三豊市の担当になり、仕事で何度も訪れているうちに、この土地に根付く豊かな『うどん文化』にすっかり魅了されてしまったのだと話します。
「『UDON HOUSE』は、うどんメーカーのさぬき麺機 と一緒にオープンしました。彼らはうどんのプロなので、技術面は全てサポートしてもらっています。さぬき麺機 では。うどん屋を開業したい人向けに毎月研修を行っているのですが、うどんのことはもちろん、経営や天ぷらの揚げ方など、さまざまな内容を教えてくれます。今までに4万人の受講者が集まり、世界38カ国からここに学びにきているんですよ。私たちもそのノウハウを学び、一緒にこの施設を作りました」。
空き家だったという築80年の古民家を改装した建物は、昔ながらの風情ある雰囲気がそのまま残されているとても綺麗なスペースです。香川県のソウルフードであるうどん作りを本格的に学ぶため、世界中から観光客が集まってくるのだそう。それではさっそく、うどんの作り方をみていきましょう。
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
とてもシンプルなうどんの材料
うどんの材料は、小麦粉、水、塩。この3つです。とてもシンプルですが、季節や天気によっても温度や湿度が変わるため、その時々に応じて、塩加減や生地のこね方を変える必要があります。
うどん作り(2019)農林水産省
混ぜる
小麦粉、塩、水をボールに入れ、よく混ぜ合わせます。生地を作るときに重要なポイントは、塩⽔と⼩⻨粉をまんべんなく混ぜ合わせていくこと 。はじめはパサパサとしていますが、だんだんとまとまってきます。
うどん作り(2019)農林水産省
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
うどんのだしの材料(2019)農林水産省
うどんの生地を寝かせている時間を使って、讃岐うどんの歴史や、「お出汁」について学びます。素材そのものをいただくのではなく、“素材から煮出した汁” をいただくというのは日本の食文化ならでは。UDON HOUSEでは、「昆布」「いりこ」「鰹節」「雑ぶし」を使って飲み比べ。実際に味わう経験を通して、味や香りの違いに気づき、出汁のうま味を実感します。
足袋(2019)農林水産省
うどん作り(2019)農林水産省
うどん踏み
寝かせたうどんの生地をビニールに入れ、板の上に置いて踏みます。この圧力よって、⼩⻨粉に⽔が浸透し 、讃岐うどんの「かみごたえのある食感」が生まれるのです。→足の裏全体でうどんの生地を踏んでいくと、次第に弾力を増していくのがわかります。踏んでもへこまなくなるくらいが目安。
『足踏み』の工程は、昔は女性や子供の仕事だったのだそう。UDON HOUSEでは参加者が楽しめるようにと、可愛らしい模様の足袋が用意されています。
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
伸ばす
生地をひっくり返して、おへそを天井に向けた状態で、両手で押して麺棒で伸ばしていきます。いよいよ、生地を伸ばしていきます。菊もみで丸くなった生地をまずは四角に整形し、そこからさらに生地を大きくしていきます。「1,2,3」とみんなで掛け声をかけながら麺棒に生地を巻きつけ、体重をかけながらまんべんなく伸ばします。
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
切る
麺切り包丁を使い、麺を切ります。麺切り包丁にはバネがついており、包丁を高くあげるとより太い麺に、低くあげると細い麺になります。好みの太さになるように、トントンとリズミカルに切ります。麺がくっつきやすいので、たっぷりと打粉をつけるのを忘れずに。
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
茹でる
大きな釜にたっぷりと湯を沸かし、麺を茹でます。麺の茹であがりは、周りがすこし透明になってきて、真ん中に白い芯が見えるくらいがちょうど良い茹であがり。
水でしめる
茹でた麺は、基本的に全て水で締めます。温かいうどんでも、一度水で締めたものを温め、出汁をかけて食べます。水でしめることによって加熱の進行を抑え、ぬめりがとれてコシが出るのだそう。例外は、うどんの種類の中にある「釜揚げ」。釜揚げうどんは名前の通り、釜から上げたものをそのまま出汁につけて食べるもの。また「釜玉」は釜から上げたものに、卵をかけて食べます。
UDON HOUSE うどん作り(2019)農林水産省
うどんの食べ方:定番からユニークな食べ方まで
食べ方の好みは人それぞれ。県外の方はその種類の多さに驚かれます。 「茹でた麺をいったん⽔でしめるのか、そのまま食べるのかで大きく分類されます。⽔でしめて冷たい麺にお醤油をかけるシンプルな食べ方が『しょうゆうどん』、濃いめの出汁につけて食べれば『ざるうどん』、麺にかけて食べると『ぶっかけうどん』になります。冷たい麺を温めて出汁をかけると定番の『かけうどん』、濃いめの出汁をかけると『熱ぶっかけうどん』。もう一度お湯にひたし、濃いめの出汁につけて食べると『湯だめうどん』です。出汁の種類もさまざま。季節の野菜がたっぷり入った出汁をかけると「しっぽくうどん」、スパイスが効いたカレー味の出汁をかければ「カレーうどん」。さらに、天ぷらや好みのトッピングをのせればバリエーションは無限大です!」 ここUDON HOUSEでは新しい食べ方も提案していて、釜玉にバターやガーリックオイルを入れたりすることも。
原田さんは、地域に根付くうどん文化の魅力についてこう語ります。「昔うどん屋さんがなかった時代には、家でうどんを打つのが普通だったそうです。上手に作るお家に分けてもらうようになって、そこがいわゆる『製麺所』になったのだとか。だから香川のうどん屋さんは、お店というより家のような雰囲気を残すところも多くあり、それはそもそも『うどん屋』になろうと思ったわけではなくて上手に作れたから、というところが多いようですね。そういった歴史があるなんて、面白いですよね」
地元の人の話によると、かつて自分の畑で獲れた小麦を製粉して製麺所に預けておき、キープしておいた自分の粉でうどんを打ってもらう「通」な人もいたといいます。
「これまでも讃岐うどんは、さまざまなブームによって全国的に知られてきましたが、食べて美味しいだけなく、みんなで作って楽しい。うどんの歴史やネタについて勉強することも面白いので、ここでうどん作りを通して、世界中の人に楽しんでもらいたい」。そう笑顔で話す彼女たちの挑戦は、まだ始まったばかり。知れば知るほどに奥深い、『讃岐うどんの世界』。是非、自分好みの「うどん」をじっくりと探してみてはいかがでしょうか?
協力:
UDON HOUSE
SAVOR JAPAN
EAT!MEET!JAPAN
写真:中垣 美沙
編集・執筆:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社