日本最大規模の青果市場、大田市場のこだわりとは

大田市場では、ひとつの果物に至るまで、味わいへのこだわりがあります。

大田市場のみかんのセリ(1989)農林水産省

1989年に誕生した東京都中央卸売市場、大田市場。そこで働くプロのこだわりをご紹介。

空撮(大田市場)(2010)農林水産省

国内外から商品が届く、大田市場

東京湾の海に面した東京都中央卸売市場、大田市場は青果・水産・花きを扱う日本が誇る総合市場です。特に青果部と花き部は、施設の規模、取扱量ともに国内最大。全国に散らばる49の青果の中央卸売市場に占める取扱額は、15.3%(2019年)と、金額においてもその存在は圧倒的。この敷地面積386,426㎡の大きな市場へ国内外から商品が集まり、街中へ広がっていくのです。

神田市場のせり風景(1974)農林水産省

東京に花開いた市場の歴史

歴史を辿ると行き着くのは、江戸時代。魚を幕府に納めさせるため、関西から呼び寄せた漁師たちに商いを許したのが、日本橋でした。青果市場もほぼ同じ頃、自然発生的に誕生し、日本橋を東京の商いの中心地に変えていきます。その後1923年に関東大震災がもたらした大打撃を受け、鉄道のアクセスもいい神田へ移転。

神田市場(空撮)(1982)農林水産省

物流の変化とともに、新たな時代へ

1935年、貨車輸送を念頭に秋葉原に設立された神田市場。その後引込線が敷かれ、貨車への荷積みがしやすいように改良されていきます。江戸時代の船から貨車へ、そして貨車からトラックへと物流の方法が変わっていくのと同時に、次第に市場に求める機能にも変化が。

大田市場 見学者通路(スカイウォーク)(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

そして1989年、現在位置する場所にできたのが大田市場でした。羽田空港にも近く空輸にも便利な立地は、周りにコンテナヤードや倉庫もある大型市場にぴったりの場所。お客さんも気軽に車で来られるようになったそう。市場には東京都の市場衛生検査所があり、監視指導が毎日行われ、安全性もしっかり確保されています。

東京青果株式会社 専務取締役 泉英和さん(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

神田時代から市場を知るエキスパート

プロたちが行き来する巨大な市場をガイドしてくれたのは、戦後間もない1947年に設立された東京青果株式会社の専務取締役、泉英和さん。1979年に入社しセリ人としても活躍した彼は、歴史から物流、青果の最新情報まで網羅する心強いエキスパートです。

東京都中央卸売市場 大田市場 市場内の様子(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

市場の住人、卸売会社について

日本最大の青果物卸売会社である東京青果を含め、合計4社ある大田市場の卸売会社。どこも商品を買い取っているわけではないと言います。「商社と同じ、産地から販売手数料を頂くビジネスです」と、泉さん。

「つまり仲卸業者や小売店だけでなく、産地もお客様。すべての面で、信頼は不可欠ですね。こだわっているのは、品質内容に見合った適切な値段をきちんとつけること。値付けは信頼につながっていきますから」

東京都中央卸売市場 大田市場 市場内の様子(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

公共施設として公平性を守る

さらに市場を物語る上で欠かせないのが、公共インフラとしての顔。例えば卸売業者は、産地から「売ってほしい」とリクエストされれば断ることができません。国民の大事なライフラインである市場の公平性を守るために、差別はしてはいけないという法律、卸売市場法が存在するためです。販売に携わるセリ人たちは、全員がこの法律を勉強するのだそう。

東京都中央卸売市場 大田市場 東京青果のセリ前の様子(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

市場が活気づく、セリの始まり

24時間オープンしている大田市場ですが、時間によりその表情は刻一刻と変わります。一番出入りが激しいのは、搬出入が重なる深夜。そして、朝6時頃になると仲卸業者や小売業者らの馴染みの顔が現れ始めます。6:50から開始されるセリ前には、プロが商品をじっくり吟味。そして7:00には、東京青果の目玉でもあるマスクメロンのセリがスタート。幕開けを知らせる鐘の音が響き渡るのです。

東京都中央卸売市場 大田市場 東京青果のマスクメロンのセリ(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

マスクメロンという「市場の基本」

泉さんはマスクメロンについて「時代がどう変わろうと、マスクメロンの競売は続けていきます」と話します。「いつ誰が果物屋さんに行っても必ずお店にある、私たちの基本で、とても大切な存在。市場を支える果実と言っても過言ではありません」その大切なマスクメロンは、ベルトコンベヤーで1箱1箱商品が目の前に流れてくる仕組みでセリにかけられます。

東京都中央卸売市場 大田市場 東京青果のマスクメロンのセリ(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

知られざる、セリ人事情

「手やり」と呼ばれるハンドサインで、お客さんの提示額を見ながら次々と価格を決定していくセリ人。リズム感のあるメリハリのきいた声と、手やりでセリをコントロールします。「よく通る声と、いいものを見抜く目利きは大前提。そうでないと、産地からも仲卸業者からも信用をなくしてしまいますからね。さらにセリ人には、生産と消費の流れを見て商機を捉える力も必要です」

東京都中央卸売市場 大田市場 東京青果のマスクメロンのセリ(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

では、一人前のセリ人として認められるまでの年数は? なんと「約10年」と即答した泉さん。
「1年に1回の季節ものは、10年やっても10回しか経験できませんから」と笑います。「必然的に、1年中市場にでるマスクメロンやリンゴなどのセリ人は自然とスペシャリストが多くなる。東京青果には、マスクメロン一筋45年のベテランもいますよ」

東京都中央卸売市場 大田市場 取引しているマスクメロン(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

作り手の技術と誇りが詰まった一玉

ガラス温室の中で、地面から離して育てる「隔離ベッド栽培」で大きくなるマスクメロン。人の手が入る要素が多いだけに、作り手の腕が試される果実だと言います。さらにマスクメロンで特筆すべき点は、高度経済成長期最中の1962年から作り手番号を「特選」シールに表示し、誰が作ったかというトレーサビリティを徹底していたこと。ほかの食品に先がけて、産地の自信と誇りを、価値として発信していたのです。

東京都中央卸売市場 大田市場 取引しているマスクメロン(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

高級フルーツ市場のルーツとは?

海外から日本へやってきた観光客が驚くことのひとつが、マスクメロンに代表される高級フルーツの存在。1玉3万円台のマスクメロンがうやうやしく桐箱に収められている姿は、日本ならではの光景です。最近のトレンドかと思いきや、なんと起源は江戸時代までさかのぼることができるそう。その鍵は、食事の終わりに果物を食する水菓子(みずがし)文化だという泉さん。

東京都中央卸売市場 大田市場 取引しているシャインマスカット(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

アイデンティティーを作る水菓子文化

「海外では、衛生的な水が手に入らずフルーツから水分を補給する国もあります。ですが昔『日本人は水と安全はタダだと思っている』という言葉が流行ったほど、日本は水が綺麗な国。フルーツに安全性ではなく、甘さや香り、食感などを求めるようになりました。食後のデザートに『水菓子』として果実が出てくるのも、凝ったデザートに匹敵する魅力があると日本人が考えていたからでしょう。世界無形文化遺産に登録された『和食』を支える、日本人のアイデンティティーのひとつと捉えてよいと思います」

東京都中央卸売市場 大田市場 東京青果の競売場(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

江戸時代末期や明治時代の初めから、今も続く高級フルーツ店が店を構えていた銀座・日本橋エリア。市場が近いため新鮮な果実が手に入るこの地域は、老舗が集まることで安心感が生まれ、客足は絶えませんでした。「手土産や贈答文化が根強い日本では、店への信頼は欠かせないもの。上質なものが集まる銀座や日本橋というイメージが、さらなる相乗効果を生んでいったのでしょう。近年はメディアの取材なども重なって、高級フルーツの価値を認める土壌はよりできてきましたね」

東京都中央卸売市場 大田市場 東京青果の競売場(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

こだわりが支持と信頼を生む

客も長年大田市場に通う目利きばかり。そんな緊張感ある現場で特にこだわっていることは、シンプルに「美味しさ」だという泉さん。「新鮮さや季節感も、美味しさに直結しますし、品質管理も徹底しています」ミカンにいたっては100%、1つ1つを光センサーで検査しています。この非破壊検査技術では糖度や酸味を光センサーで測定し、その上で人間の目で皮の状態などを確認。果物は自然の賜物ですから時によって味が変化しますが、「美味しくない」は許されない。「テクノロジーを活用しながら、産地と一緒に美味しい果実を届けることが私たちの仕事です」ときっぱり。

東京都中央卸売市場 大田市場 市場内の風景(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

エコなこだわりを細部に宿して

流通段階でも強いこだわりがある東京青果。例えば傷みやすい上に見た目を重要視されるイチゴ用に、振動を軽減する専用ラックを開発。特許も取得したラックは、通気性も抜群。ダンボールや発泡スチロールに代わる、環境に優しい通いコンテナも、20年以上前から取り入れていたといいます。また大田市場自体も、電力を使わずに換気をコントロール可能。無駄を省く姿勢が、エコにつながっているのです。

東京都中央卸売市場 大田市場 市場内の様子(2020)出典: 東京都中央卸売市場 大田市場

1日に約4000トンもの品物が動く東京都中央卸売市場、大田市場。日本を支えるこの巨大な市場を訪れると、試行錯誤のうえ生み出されたプロのこだわりとの出会いが待っています。毎日手に取る青果物が、少し特別に見える市場へ出かけてみませんか。

提供: ストーリー

協力:
東京都中央卸売市場 大田市場
東京青果株式会社


撮影:阿部 裕介(YARD)
執筆:大司 麻紀子
編集:林田 沙織
制作:Skyrocket 株式会社

提供: 全展示アイテム
ストーリーによっては独立した第三者が作成した場合があり、必ずしも下記のコンテンツ提供機関の見解を表すものではありません。
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